INTRODUCTION
芸術の起源についてカルロス・サウラが、監督と主演を務めながら探求するドキュメンタリー映画。先史時代の洞窟における最初のグラフィック⾰命から、最も前衛的な都市表現まで、創造的なキャンバスとしての「壁」と芸術との関係を描く。
⼈類進化の偉⼤な思想家フアン・ルイス・アルスアガや、現代アートを代表するアーティスト、ミケル・バルセロなど、個性的な人々が同⾏するパーソナルな旅。⾃らのことは多く語らないが、芸術に関しては饒舌で、まるで⼦供のようになるサウラ。アルタミラ洞窟の専⾨家と共にスペインの遺跡や洞窟をめぐり、人類の進化と共に、人はなぜ壁に描いたのか、を探っていく。そして、その視点は現代の若い世代、グラフィティ・アーティストのZeta、グラフィティ・ライターのMusa71、アーバン・クリエイターのSuso33、アーティストのCucoにも注がれる。サウラ監督自身が彼らに迫り、壁に描くようになった経緯を問いながら、現代と太古の壁画アーティストたちが時空を超えて、繋がっていく。撮影時、90歳。大学生の頃から映画を作り続けてきたカルロス・サウラにとって、『壁は語る』が生涯最後の作品となった。
監督・出演:カルロス・サウラ/脚本:カルロス・サウラ、ホセ・モリーリャス/撮影:フアナ・ヒメネス、リタ・ノリエガ/音楽:アルフォンソ・G・アギラル/ 編集:ヴァネッサ・マリンベル/製作:マリア・デル・プイ・アルバラード
2022年/スペイン/DCP/75分/カラー
LOCATION
CAST
ミケル・バルセロ
1957年マヨルカ島フェラニチ生まれ。1970年、パリを訪れ、アール・ブリュット(*)に出会う。1972年から1973年にかけてパルマ・デ・マヨルカの美術学校、1974年にバルセロナのサン・ジョルディ美術学校に進むが中退。1976年、前衛芸術家のグループに参加。1982年の「ドクメンタ7」(ドイツ・カッセル)で国際的な場に登場し,1986年にはスペイン国民造形技術賞を受賞。1988年にサハラ砂漠を縦断し、マリでドゴン族の居住地域であるバンディアガラの断崖にアトリエを構え、繰り返し訪れる。1996年、パリ、ポンピドゥーセンターで大回顧展。パルマ大聖堂のサン・ペール礼拝堂(2007年に完成)から、振付家・ダンサーのジョセフ・ナジとのパフォーマンス「パソ・ドブレ」まで、活動は多彩。1993年にアルタミラ洞窟、2005年にショーヴェ洞窟を訪れ、壁画に魅かれ、ショーヴェ洞窟のレプリカプロジェクトの学術委員に名を連ねる。2022年1月13日から3月25日まで、東京オペラシティ アートギャラリーで日本初の回顧展が行われた。
*アール・ブリュット:「生(き)の芸術」を意味するフランス語で、既存の美術教育や美術潮流に影響されず、内側から湧き上がる衝動のままに表現した芸術を指す。1940年代にフランスの画家、ジャン・デュビュッフェが提唱。
ペドロ・サウラ=ルルフォ
旧石器時代芸術専門家、アルタミラ洞窟壁画再現画家。1948年ムルシア生まれ。アルタミラを初めとするスペイン北部の洞窟芸術の専門家であり画家、写真家でありドキュメンタリー映像作家でもある。コンプルテンセ大学芸術学部写真学科の教授で、妻と共に洞窟壁画のレプリカを製作し、ネオクエバ(新洞窟)として知られるレプリカ1は、1992年に志摩パルケ・エスパーニャで制作された。考古学、自然、探検などをテーマにしたドキュメンタリー70本余りに監督や撮影として関わっている。
ホセ・ルイス・アルスアガ
人類進化博物館CSO(最高科学責任者)。アタプエルカ遺跡共同責任者。1954年マドリード生まれ。コンプルテンセ大学で生物学で博士号を取得。同大学の地質学部の古生物教授であり、ロンドン大学人類学部の客員教授。1982年からブルゴスのアタプエルカ山脈の遺跡発掘調査に加わり、1999年にアタプエルカ財団を設立。アタプエルカでの発見は90万年前とされる遺骨を含め、欧州に最初に生息した人類に関する新たなデータを明らかにした。
ロベルト・オンタニョン
カンタブリア先史考古学博物館館長、カンタブリア先史洞窟壁画センター所長。1965年サンタンデール生まれ。カンタブリア大学で歴史学(先史学・考古学)の博士号を取得(2000年)。2001年から2003年までパリ国立科学研究センター、パリ第1・10大学にて博士研究員。ラスコー洞窟科学評議会(フランス)、ショーヴェ洞窟科学委員会(フランス)、アルタミラ国立博物館・研究センター(スペイン)理事。2023年12月には、考古学者パブロ・アリアス氏と共に2年の調査を経て、カンタブリアのラ・ガルマ洞窟から1万6800年前の洞窟住居跡を発見した。
アンナ・ディミトロヴァ
グラフィティ専門ギャラリーオーナー、キュレーター。1979年ブルガリア生まれ、モロッコ育ち。1996年からスペインに在住。2007年にNobulo社をバルセロナに設立。世界で90の展覧会と60のイベントを立ち上げてきた。2010年、グラフィティ素材を販売するモンタナショップの経営を引き継ぎ、新たな才能発掘のために隣にモンタナ・ギャラリーを開設。スペイン初のグラフィティ専門ギャラリーとなる。2015年には現代美術のAddaギャラリーをバルセロナの他、パリやイビサ島にも開設。
Suso33
1973年マドリード生まれ。古典的なグラフィティやストリートアートから出発し、アクション・ペインティング、壁画、インスタレーション、ビデオアート、パフォーマンス、舞台美術など、さまざまな分野で作品を展開している。
Zeta
1970年マドリード生まれ。80年代からグラフィティを始める。DJや音楽プロデューサーとしても活動しながら、今もストリートが基本で、様々なプロジェクトにアートディレクターとしても参加。コンプルテンセ大学のスポーツ施設に描くプロジェクトでも、一般参加者と共に作品を作り上げた。
Musa71
1971年バルセロナ生まれ。89年からMusa71の名前でグラフィティを始め、独学で学び続けている。Zetaとのコラボやアルメニアでのプロジェクトに参加しながら、自作の絵やアクセサリーをオンラインで販売している。
Cuco
1988年バリャドリード生まれ。バリャドリード芸術学校でグラフィックアートを学び、2014年マドリードのコンプルテンセ大学美術学部を卒業。2015年、芸術集団エスパシオ・マトリオスカを共同設立。インド、ネパールを拠点に壁画制作。メキシコやスイスでも壁画を制作し、2018年からビデオアート・ドキュメンタリーの制作も始める。