すでに終了して1週間以上たってしまいましたが、2017年6月9日(金)、東京外国語大学プロメテウスホールで行われた映画上映とトーク、たくさんの方に来ていただきありがとうございました。キャパ500人のホールが満席状態の中、キューバ映画「低開発の記憶〜メモリアス」を久々に上映。企画してくれた外大生の新谷さんの司会で、ラテンアメリカ文学の久野先生と共に、映画の舞台となった革命からキューバ危機への時代、キューバ映画の変遷から原作小説と作家、そしてトマス・グティレス・アレア監督の他の作品に至るまで幅広いテーマになりました。これも新谷さんと久野先生のお陰です。
ホールとなりのカフェでビールフェアがあったにも関わらず、トークに残っていただいた皆様から「今の日本と同じような危機感」という感想や、最初のシーンをどう捉えるかなど質問いただき、作品を咀嚼する機会を持てたことが幸せでした。
この作品は、いつの時代にも二者択一や同調圧力に解せない人に、考えるきっかけを与えてくれます。社会が急速に変化する時に「自分はどう考え、どう行動するのか」。熱狂する革命側にも、国を出て行く金持ち連中にも疑問を感じる主人公セルヒオが、革命で一体なにがどう変わるのかを見届けようとします。一方で、街を歩き、若い女性に声をかけて、裁判にかけられたり…。
外からみると、国全体が、革命後の社会に向けて、団結しているように見えても、そこに組しない個人が存在している。その個人の目を通して描かれた革命直後のキューバが、ここにはあります。セルヒオは自分なりの答えを見つけようと、内省していくうちに、時勢は刻々と変わり、当時のソ連の核ミサイルが米国に向けてキューバに配備される、という一触即発の状況に入っていきます。(フルシチョフとケネディの時代です)
予告編
今の日本の状況下で、この作品を観ると、以前より身近に社会が変革する時の個人の行動に興味がわきます。ドイツのアイヒマン裁判に立ち会いリポートした哲学者ハンナ・アーレントが言ったように、考えることをやめない、思考停止に陥らないことを肝に銘じねば、と。そんな中、外大生の新谷さんの企画で上映が実現しました。スペイン語映画には、まだまだ刺激的で、考えさせられる面白い作品が多々あるので、新谷さんに次世代を託すべく、今後は一緒に企画上映や日本とスペイン語圏の若手監督たちの交流ができれば、と思っています。
オバマ政権下での国交正常化(経済制裁解除には)で、双方の国に大使館を開き、米国からキューバへの渡航基準が緩和されました。大使館といっても、すでに以前から互いの国に利益代表部が存在していたので、実際には、そこを大使館にした、ということです。ブッシュ政権時代に、米国人がキューバに行ったら、2万ドルの罰金!ということで、普通の旅行者には敷居が高かったのですが、米国のドキュメンタリー監督、マイケル・ムーアは米国の医療事情をテーマにした「シッコ」で、わざとキューバに行っていました。
昨年、「エルネスト」の撮影で滞在したときにも、特に米国人観光客が増え、既存のホテルだけでは数が足らず、民泊が急増しておりました。ちょうど、私たちがいる時に、米国系航空会社がマイアミからの直行便で、初めてサンタクララに到着したことがニュースになっていたほど、我も我もと直行便を出す手はずを整えていましたが、余りにも便数を増やして採算が取れない会社も出て、一時から比べると落ち着いたようです。
ところが先週、「トランプ大統領 対キューバ政策を見直し」というニュースが出ました。外交やロシア疑惑で忙しくて、しばらくキューバには手をつけないか、と思っていたら、ついに、という感じですが、大使館はそのままにするも、米国人のキューバへの個人旅行や商取引を規制したいようです。まあ、オバマ大統領も、初当選の時に約束した(キューバにある)米軍基地内のグアンタナモ収容所の閉鎖ができず、キューバに対する経済制裁も解除まで至らなかったので、任期最後のパフォーマンスという声もありましたが、国交正常化が発表されるや、航空会社だけではなく、ネットフリックがキューバでサービス開始のニュースに、ラテンアメリカの映画業界は、みな目が点になりました。「キューバのネットインフラが整備されていないのに、誰が月に8ドルも出して入るかねえ」と。観光や芸能関係に携わっていない人々は月20ドルがやっとという状況なのに、と。でも、米国はこれをきっかけにキューバが手放さない通信インフラに手を出すのではないか、という憶測もありました。
昨年、滞在したときには、1時間2CUC(兌換ペソ)のカードを買って、スクラッチしてIDとパスワードを入力してホテルかwifiがある公園でネットにつなぐ形でしたが、現地の人々はスマホでネット接続していました。この2年で米国人観光客が急増しているキューバ。今後トランプ大統領の発言が、どのような方向に向かうのか、注目されていますが、食指をのばす米国企業も多い中、メキシコの壁同様、規制強化の揺り戻しは、そう簡単にはいかないでしょう。
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