default img

「見まちがう人たち」

「見まちがう人たち」TIFFコンペ出品作
脚本家であり作家でもあるチリのクリスチャン・ヒメネス
監督の初長編作で、巨大ショッピングモールに集う人々の
人間模様をシニカルかつコミカルに描いたオフビートな群像劇。
チリ・ポルトガル・フランス合作映画(アジアン・プレミア)。
TVプロデューサーとして4年間を過ごしたイギリスから故郷
(チリ南部ヴァルディヴィア)に戻ったヒメネス監督が、町の
変貌ぶりに違和感を覚えたことが映画のアイディアに繋がった
作品で、昔ながらの街並みの中に突如出現したピカピカと輝く
巨大なショッピングセンターを映画の舞台にした。
物語の中核をなすのは、医療企業ビタ・スールの社員たち。
リストラ対象となり、肩たたきをされた中年エンジニアは
女性事務員に心を寄せる。その事務員は社員割引で豊胸手術を
受けることが夢だ。彼女と暮らす兄は最近になって、やっと
モールの警備員に雇われたばかり。彼は盗癖のある裕福な
人妻に誘惑される。人妻の夫はビタ・スールの幹部社員で、
自社の視力回復手術を受けた盲目の男性マッサージ師をCMに
起用、業績アップを狙っている。だが、不完全な手術のため
中途半端にしか視力が回復しなかったマッサージ師は憂鬱だ。
彼の妻も全盲で、凄腕のマッサージ師だが、夫の手術の結果、
夫婦仲はギクシャクとし始める。CM撮影の時、スキー滑走で
事故った男性マッサージ師は豊胸手術に失敗した女性事務員と
病院で出会い…。
風変わりな人々の“勘違い”人生を巧みに交錯させた脚本は、
同じくチリの脚本家&監督であるアリシア・シェルトンと
ヒメネス監督によるもので、登場人物のキャラクターが実に
ユニークだ。
爆笑では決してないが、クスリと笑えるシーンが連続する。
それは、登場人物の奇妙さに加え、間のずらし方の妙と
監督の独得の映像センス、編集によるところが大きい。
“冬”という季節を選んだことも功を奏している。
TIFFには監督(医師の役でも出演)とビタ・スール社の
女性事務員を演じたパオラ・ラトゥスが参加した。
チリ北部出身のラトゥスは舞台を中心にして活動する女優で、
昨年、この映画評コーナーで取り上げたチリ・ブラジル合作の
秀作「トニー・マネロ」にも出演している若手演技派だ。
だが、チリの北部と南部では人々の気質がかなり違うため、
ラトゥスは演じる事務員の性格や話し方、さらには歩き方に
いたるまで、監督から細かく指示を受けながら演じたそうだ。
ところで、ラストクレジットに協賛会社のロゴが並ぶのだが、
なんと、ネスレ社のお馴染みのロゴの隣りにVIDA SUR社の
ロゴが堂々と登場! 映画の中では、全く好意的には描かれて
いない会社だったので、“えっ! 実在するんかい?”と、目が
点になってしまった。
これこそ“目の錯覚か”とモヤモヤした気分を味遭わされたの
だが、ヒメネス監督いわく、当然のことながらビタ・スール
社は架空の会社であり、“ジョーク”で実在する会社のロゴの
間に紛れ込ませたとのこと。な~んだ、このアイロニカルな
監督のちゃっかりとした術中に陥っていた次第……。
公式記者会見では質問が日本語から英語とスペイン語に訳され、
返答はスペイン語から日本語に訳されたり、英語から日本語に
訳されたりしたのだが、担当通訳の温度差(技量も含め)に
よって微妙なズレが発生。監督の質問をはぐらかすトボケた
返答も相俟って、細かいニュアンスが伝わらず、映画の原題
“OPTICAL ILLUSION”(錯視、見まちがい、幻視)さながらの
展開となった(笑)。